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オリンパスXA1
その昔。写真屋さんの店先やカウンターにちょこんと置いてあったのが「カメラ坊や」のマスコット人形。愛くるしい男の子が構えるカメラには、真ん中のレンズを取り囲むように、小さなプチプチがたくさんあしらわれている。
この、プチプチの下に隠れているもの。それがセレン光電池である。セレンとは原子番号34の元素である。かつて、セレンの光起電効果を利用した太陽電池が、多くの写真機に採用されていた時代があった。一眼レフがTTL化されるそのちょっと前が全盛期だろう。もちろん、単体露出計にもセレンは使われてきた。ベストセラーでロングセラーのセコニックのスタジオデラックスも数十年間、セレン光電池が受光素子であった(現在はアモルフォス素子)。また、カメラ坊やのカメラのように、レンズ先端のフィルター枠内にセレン光電池を収めるデザインは、サークルアイとも呼ばれ、フィルターによる露出倍数も気にしないで済む方式として多くのカメラに採用されたのである。 現在はセレンに毒性があることなどから、セレン利用のプチプチ露出計はすっかり姿を消してしまった。ちょっと残念。 さて、そのセレン光電池を最も遅い時期までカメラに搭載していたのがオリンパスであった。ちなみに、手元にある1988年の日本カメラショーのカメラ総合カタログでは、セレン搭載のペンEE-3は現役機である。 * * * * さて、オリンパスペン(もちろん銀塩)やOMシリーズ(これも銀塩)といった銘機を世に送り出したのは、米谷美久さん。名設計者であった米谷さんは、カメラのデザインまでも自ら行っていたとのこと。 ところで、ペンもOMも、単独のカメラではなく、そこには明確な意志を感じさせるバリエーションモデルが存在し、さらにたくさんの付属品とともに、ペンワールドやOMワールドといったシステムになっていた。 例えば、最初のペン。発売は1959年。露出計は搭載されず、ピントも目測。搭載されたレンズはF3.5の明るさであった。その最初のモデルをベースに、さらに明るいレンズのペンSが登場(1960年)。この高級レンズ路線は後のペンDシリーズへと進化。一方、女性にもカメラの普及をと手軽さを追い求める方向性としてセレン光電池を搭載した自動露出のペンEE(エレクトリックアイ=自動露出)が1961年に登場。EE-2・EE-3へと進化したのである。また、明るいレンズとEEを連動させたEED(1967年)や広角レンズのペンワイド。そして、広角から望遠までズラリとレンズが揃うレンズ交換式一眼レフのペンFシリーズへ発展したのである。また、EE系をフルサイズにまで拡大した派生モデル「トリップ」も長く人気のあるカメラだった。 話を戻そう。米谷さんが設計した晩期のカメラが、XAであった。 カプセルカメラの異名を持つこのカメラ。ケースレス構造の超コンパクトボディ。前面バリヤを開くとレンズや操作部がお目見えというギミック。二重像合致の距離計や絞り優先という、マニア心をくすぐるスペック。とにかく一世を風靡し話題をさらったカメラであった。そして、ペンやOM同様に、XAにもシリーズがあったのである。XAをプログラム露出、ゾーンフォーカスに簡略化したXA2。さらにXA2のフィルム巻き上げ簡略化と感度自動設定としたXA3。さらに広角28ミリで接写もできるXA4という展開。そして、もう一台。少々異色のXA1というカメラがあったのだ。 XAの発売は1979年。そしてXA2が1980年に発売されている。そして、さらに二年後の1982年。ようやっと発売されたのがXA1なのだ。これだけ開発に時間がかかるのだから、よほど設計や製造の難しい、凝りに凝ったメカメカ搭載カメラなのだろうか、と思うのだが、そのスペックは全然凄さを感じさせないのである。ピントは固定焦点。感度もASA100と400しか選べない。どういう理由で「1」という誉れ高い数字になったのかは不明だが、XAとXA1の揃い踏みは、少々混乱するところなのだ。 さて、XA1が他のXAシリーズと大きく違うところ。それが、セレン光電池を利用したカメラだということである。露出はプログラム式自動露出だが、シャッタースピードは1/30秒と1/250秒の二速。暗い場所では自動的にシャッターが切れなくなり、低照度を警告する赤いベロがファインダーに出てくるのである。・・・とここまで書けばお分かりのように、この露出制御方式はペンEEやトリップとほぼ同じ。ちなみに、この方式にするために、他のXAがフェザータッチのシャッターなのに対し、いつ切れるのかないつ切れるのかな、と心配になるほど長いストロークの機械式シャッターである。 まさか、この方式を搭載するのに、ずずずと長い開発期間があったとは思えないのだが、とにかく不思議な順番で世の中に出現したXA1。 現在の視線に立てば太陽電池で露出が制御されるエコカメラでもあり、何よりコンパクト。さらには専用のストロボ「AM9」まで用意されるというスペシャルな立ち位置で、リスペクトされるかもしれないのであるが、リアルタイムでは、なんだか不思議なカメラだな、という印象に終始した一台だった。 さてさて、そんなプリミティブなXA1だが、実際にフィールドに持参すると、それなりに楽しいものである。ポジとネガ双方で撮影したが、感度200というネガは、本機では設定がなく、400に設定して撮したために若干アンダーとなってしまったが、悪いものではなかった。ほとんど何も考えずバシャバシャシャッターを切る。これがこのカメラの正しい使い方かどうかを自問することもなく、とにかくシャッターを切る。 この、何も考えなくても、というコンセプトは、米谷さんが考えていた初心者でも写せるカメラというものをまさに具現化している。さすがにピントには甘さがあるのだが、その甘さも、甘美と受け取ることができるのは、最近のカメラレンズがみなきちっと撮れるものばかりということに対する無意識の反省から来ているのかもしれない。 バリアの奥からちらりと覗くセレン光電池の複眼達がキラリと反射する。このカメラは、近未来から舞い戻ってきた、独立系エネルギーのスタンドアローンモデルに違いない。 XA1を眺めての、心地よい錯覚も心地よい。 ![]() オリンパスXA1・プログラムAE・KODAK GB200・XA1にはASA(ISO)感度200の設定がないので、ASA400に設定して撮影。そのため、少しアンダー目である。 人生いたるところに山河あり。四国にはその名も「山川」がある。XA-1は気軽なスナップに向いている。 ![]() オリンパスXA1・プログラムAE・KODAK GB200・XA1にはASA(ISO)感度200の設定がないので、ASA400に設定して撮影。 遠くに裏丹沢を望む。パンフォーカスのカメラだが、ピントの悪さを感じさせない雰囲気がある。雪の朝、ぶらり散歩中の一枚。 ![]() オリンパスXA1・プログラムAE・KODAK GB200・XA1にはASA(ISO)感度200の設定がないので、ASA400に設定して撮影。 経の坂大師と記される。四国といえば弘法大師。人々の信仰心は今も篤いようだ。記念にパチリ。 ![]() オリンパスXA1・プログラムAE・KODAK GB200・XA1にはASA(ISO)感度200の設定がないので、ASA400に設定して撮影。 あまり見たくない風景だが、どこにでもあるような風景。さっとバリアを開き、パッと撮影。バリアを閉じたらさようなら。 ![]()
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機種一覧(カメラ)
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