登録されている商品情報はありません。
 
    登録されている商品情報はありません。
 
神立尚紀さん
2
ローライフレックス3.5F
 赤城耕一師匠から、光栄にもご指名をいただいて、「カメラ回想録」を書くことになった。……と言っても、思い出のカメラ、好きなカメラから一台を選ぶ、というのはとても難しい。悩み抜いた末、選んだのは、ローライフレックス3.5Fである。
 ローライフレックスは、クラシックな二眼レフだが、私が写真を始めた1970年代半ば頃にも、なお独逸(ドイツ)製高級カメラの雄として、その威光は燦然と輝いていた。国産最高級機のニコンF2、キヤノンF-1
が、いずれも50ミリF1.4付きで14~15万円だった1977年当時(35年前だ)の、ローライフレックス2.8Fの新品定価が298,000円で、とても手が出ずため息をついたのを憶えている。
 いま、私が使っているローライフレックスは、カール・ツァイスのプラナー75ミリF3.5が固定装着された3.5Fが一台だけだが、このカメラは、1995年、私が「戦争体験者の肖像と証言」という新たなテーマに取り組む際に、自らに活を入れようと、中古カメラ店でオーバーホール済みの機体を見つけて購入したものだ。シリアルナンバーによると、私と同い年の製品らしい。
 プラナーあるいはシュナイダー・クセノター80ミリF2.8を装着した2.8F、クセノター75ミリF3.5を装着した3.5Fもあるなかで、プラナー付きの3.5Fを選んだのは、ローライフレックスを愛用した恩師・三木淳、木村惠一両先生が、「ローライはサンハン(F3.5)のプラナー付きに限る」としばしばおっしゃっていたから。素直な私としては迷う余地がなかったのだ。
 結局、このローライフレックス3.5Fは、中古で買って17年間、一度も故障することなく酷使に耐えてくれている。私が上梓した10数冊の本のうち、5冊の人物写真は、この一台で撮ったものだ。ローライフレックスは戦前から垂涎の的だったから、被写体になる年配の方々は、カメラバッグから取り出しただけで、「ほほう、ローライですか。こりゃ懐かしい」と頬をゆるめてくださり、結果的にいい表情が引き出せたこともしばしばだった。
 人物だけでなく、商品撮影にもよく使うし、動くものを撮る時にはプリズムファインダーを常用している。
 ズームレンズ全盛のいま、レンズ固定式というのは不便なように思われるかも知れないが、レンズが交換できないぶん、限られた画角の範囲内で最大限の工夫をしようとするから、フットワークや被写体との距離感が磨かれ、かえってよい結果につながることが多い。交換レンズを買わなくて済むので、トータルで安く上がるのも、利点の一つだ。
 コンパーシャッターの作動音は静かで、可動ミラーがないからショックも少なく、シャッターボタンを前から後ろに押し込む構造もあいまって、ブレにくい。
 状態のいいものを一台持っていれば、フィルムある限り、生涯の友となる、そんなカメラだ。


プリズムファインダーとレンズフードを装着した状態。私はたいていこのスタイルで使っている。縦横の持ち替えの必要がないスクエアなフォーマットのため、手になじむのが早い。

私の3.5Fは、露出計も生きている。銘板下のハニカム状の受光部の外部測光で、絞りとシャッター速度に連動する。絞りに合わせて白いバーの幅が動く被写界深度指標は、まさに精密機械だ。


今回の語り手プロフィール
神立尚紀
Naoki Koudachi
次回の語り手プロフィール
榎並悦子
Etsuko ENAMI
1963年大阪府生まれ。
1986年講談社「FRIDAY」専属カメラマンとなる。1997年まで同誌専属として取材報道に従事したのちフリー。日本写真家協会(JPS)会員。東京工芸大学非常勤講師。著書に『撮るライカ』(光人社)『祖父たちの零戦』(講談社)『特攻の真意』(文藝春秋)など。
  京都市生まれ。
国内外を問わず旅することが大好きで、「一期一会」の出会いを大切に、人物や自然、風習、高齢化問題など幅広いフィールドをしなやかな視線でとらえ続けている。写真展に盲老人ホームの日常をとらえた「都わすれ」や東京の下町を撮った「裏から廻って三軒目」、高齢化率日本一の町を取材した「日本一の長寿郷」、パリの街角をモノクロでとらえた「Paris -刻の面影-」、など多数開催。アメリカに暮らす小人症の人々を取材した写真集「Little People」で第37回講談社出版文化賞受賞。(社)日本写真家協会会員、(社)日本写真協会会員。
榎並悦子さんは、国内外を旅して人物や自然、風習、高齢化問題など、幅広いフィールドですばらしい作品を発表し続けておられて、私の尊敬する写真家の一人です。とてもフットワークよく、心遣いの細やかな、憧れの人でもあります。これまでお話する機会は何度もありましたが、そういえば、榎並さんとカメラの話をしたことは一度もありませんでした。榎並さんがどんなカメラに愛着を感じておられるかに、個人的にも興味津々なのです。
語り手一覧
▶ 赤城耕一
▶ 榎並悦子
▶ 大坂寛
▶ 織作峰子
▶ 神立尚紀
▶ 齋藤亮一
▶ 坂口綱男
▶ 佐藤仁重
▶ 鈴木一雄
▶ 高井潔
▶ 内藤忠行
▶ 英伸三
▶ 林義勝
▶ 松本徳彦
機種一覧(カメラ)
▶ オリンパス OM-1N
▶ キヤノン F-1
▶ コンタックスRTS
▶ コンタックスRXII
▶ コンタックスST
▶ ニコンS
▶ ニコンSP
▶ ハッセルブラッド553ELX&オリンパスPEN E-P3
▶ ペンタックス67
▶ マミヤ7II
▶ ミノルタオートコード
▶ リンホフテヒニカ4×5
▶ ローライ コード
▶ ローライフレックス3.5F
バックナンバー
▶ No.14 (2016/12)
▶ No.13 (2016/09)
▶ No.12 (2016/06)
▶ No.11 (2016/03)
▶ No.10 (2015/11)
▶ No.9 (2015/07)
▶ No.8 (2015/02)
▶ No.7 (2014/08)
▶ No.6 (2014/04)
▶ No.5 (2014/01)
▶ No.4 (2013/10)
▶ No.3 (2012/10)
▶ No.2 (2012/05)
▶ No.1 (2012/04)
RSS RSS